中国山地 · 阿毘縁

源郷 — 始まりに、触れる

鉄と、牛と、神話の源流へ。

夜明けの中国山地(イメージ)

理念

始まりに、触れる。

源郷(げんきょう)は、阿毘縁という土地から始まるプロジェクトです。鉄をつくり、牛を育て、神話が語られた——人の営みが自然の原初と出会った場所に、いま一度ふれる。

古の境界

阿毘縁 — 比類なき、すばらしい場所

中国山地の懐深く、阿毘縁(あびれ)がある。その名の「阿毘」は、阿毘達磨(アビダルマ)などにみられる梵語の接頭辞アビ(abhi=「勝れた・超えた」の意)に通じるとされ、阿毘縁は「比類なき、すばらしい場所」を意味すると伝えられる。八世紀の『出雲国風土記』は、この地を「伯耆国日野郡堺 阿志比縁山」と記す。旧国でいえば伯耆国に属し、出雲国(島根)・備後国(広島)・備中国(岡山)と境を接する、四つの国のあわいの山あいである。

山あいに息づく静けさ(イメージ)

山あいに息づく静けさ(イメージ)

鉄と神話

神話 — 古事記の舞台

斐伊川の上流、船通山で、須佐之男は八岐大蛇を退治し、その尾から天叢雲剣(草薙剣)を得たと伝わる。『出雲国風土記』は、奥出雲の鉄を「堅し」と記す。

八岐大蛇を、製鉄の寓意と読む解釈がある。赤く爛れた目を製鉄の民に、血に染まる腹を炉の炎に、尾から現れた剣を鉄の剣に重ねる読み方である。氾濫する斐伊川の治水と読む説もあり、ひとつには定まらない。

もうひとつの神話が、同じ稜線に隣り合う。『古事記』が伊邪那美の葬地と伝える「出雲と伯耆の堺の比婆之山」、その伝承地のひとつ御墓山である。阿毘縁は、船通山(草薙剣)と御墓山(伊邪那美)の双方に接する、国境の尾根の上にある。

霧の稜線 — 阿毘縁の山

霧の稜線 — 阿毘縁の山

土の錬金術

野だたら — 鉄づくりの、源流

炉屋を据える以前、野に火を熾して鉄を生む。たたらの最も原初のかたちを、野だたらという。奥日野は良質な砂鉄と豊かな森に恵まれ、刃物に向く良い鋼を産した。

奥日野の山には、五百を超えるたたら場の跡が残る。慶長五年(一六〇〇)、阿毘縁の大谷山で鉄づくりが始まった記録があり、砂鉄を選り分けた鉄穴流しの跡は、いまは田となっている。日野郡のたたらは、大正十年(一九二一)に火を落とした。

火と鉄の神、金屋子神(かなやごのかみ)。その総本社は、御墓山の向こう、隣の西比田(安来市広瀬町)に鎮まる。全国およそ千二百社におよぶ金屋子神社の、おおもとである。鉄をつくる人々は、いまもこの神を祀る。

「野だたら」が阿毘縁で操業したと示す一次史料は手元にない。原初のかたちに連なる地として、概念で語る。

炭と砂鉄(イメージ)

炭と砂鉄(イメージ)

生きた系譜

蔓牛 — 和牛の、源

鉄を運び、田を耕す。たたらの郷では足腰の強い牛が重んじられ、その重んじが、牛の改良——蔓牛(つるうし)の造成につながった。

となりまち新見に、黒毛和種のもととなった最古の蔓「竹の谷蔓」がある。一八三〇年、難波千代平が確立した系統で、いまの和牛の礎のひとつ。鉄の源と、牛の源は、ひとつの産業史でつながっている。

黒毛和種(イメージ)

黒毛和種(イメージ)

源郷の拠点

ゆきんこ村 — 源郷の、基地

森と、星と、蛍。標高約五五〇メートルの静けさのなかで、源郷に触れるための小さな基地をつくっています。

犬と来て、犬と過ごす。山の食を、ここで。量を競うのではなく、ここにしかない物語と静けさを。準備が整いしだい、お知らせします。

森と星

森と星

源郷からの便り

山々から届く、静かな物語を、ときどきお届けします。